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にいがたフォトセッション講 番外 レクイエム
「お黙り!お黙り、お黙り、お黙り!」
松子夫人が怒りに声をふるわせたのはそのときだった。
「おまえさんたちは、なんということをいうの。この佐清は、かりにも犬神家の総本家ですよ。
総本家の跡取り息子ですよ。お父さんがあんなつまらない遺言状をかいておかなかったら、
犬神家の名跡も、財産もすっかりこの子のものになっていたはずなんだ。この子は本家だよ、
総本家ですよ、昔ならば殿様だ、ご主人ですよ。佐武も、佐智も、家来も同然、それだのに…
…それだのに……この子をつかまえて、手型をおせの、指紋をとらせのと、まるで罪人を扱う
ように。……いいえ、いいえ、けっして、……佐清、おいで、こんなところにいることはない」
松子夫人は席を蹴って立ち上がった。

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「署長さんも、たぶんお聞きおよびでしょうが、実は昨夜もこの座敷で、これと同じような場面
がございました。佐武さん佐智さんが詰めよって、無理無体に、佐清に手型をおさせようとし
たのでございます。(中略)しかし、いまはもう、事態がすっかり変ってまいりました。
佐武さんが、あのような恐ろしいことになって、しかも……」
と、そこで松子夫人は毒々しい視線を、妹の竹子のほうに投げると、
「それがまるで、わたしと佐清の仕業のように、このひとたちは思いこんでいるのでございます。
しかしよくよく考えてみれば、それも無理ではないかもしれません(中略)これはいつまでも意
地を張っている場合ではない。……と、そんなふうに考えたものですから、署長さんにもお立
会いを願って、皆さんの眼のまえで、佐清に手型をおさせようと思い立ったのでございます。
皆さん、これでわたくしの気持ちは、よくおわかりくだすったでしょうね。」
松子夫人の長広舌はそこで終わった。夫人はそこで一同の顔を見回したが、だれも声に出し
て、それに返事をするものはなかった。橘署長がうなずいたきりである。
「では、佐清……」

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仮面の佐清が右手を出した。さすがに興奮しているのか、だした掌がふるえている。松子夫人
はどっぷり手に、朱墨をふくませると、それを掌に塗ってやる。掌が真っ赤に塗り上げられると、
「さあ、その紙へ……」
佐清は五本の指を、八つ手の葉のように広げると、それでべったり白紙の上に押し付けた。
松子夫人はしっかりその手をおさえながら、毒々しい眼で一同を見回し、
「さあ、皆さん、よくごらんくださいまし、佐清は手型をおしましたよ。なんのペテンも、
いかさもありませんよ。署長さん、あなた証人になってくださいますわね」

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〔 GR DIGITAL 《 photograph by Mr.Marikichi10 》 〕


いまから一ヶ月前の2月13日、巨匠市川崑監督が鬼籍に入る。更に一年ほど前に完成したリメイク版
『犬神家の一族』のキャスティングでどうしても納得のできなかった配役に、犬神家顧問弁護士古館
恭三役の中村敦夫があった。前作では小沢栄太郎の重厚な演技が光ったものだが、今作の中村=古舘
は作りすぎたメイクとともに違和感を感じたものだったが、『犬神…』が市川監督の遺作となった今、
市川監督が映画もTVもこだわらずに美しい映像を愛した人だったことを思えば、TV界に市川ワールド
を展開した『木枯らし紋次郎』の中村敦夫を出演させるという事は、自身のこの世での仕事の締めく
くりには欠かせない俳優であることは
間違いない!!ということで今は大納得(笑)

いい役者があちらの世界に多く行ってしまったいま、あの世での市川作品も早く観たい気もするが、
私の予定では後半世紀くらいあとになる予定(笑)
by ara_umi | 2008-03-14 23:46 | 小さな旅
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